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ルーニィ247ファインアーツで2020年9月に開催された同氏の個展「Домой -シベリア鉄道-」に合わせて制作・販売されたzine。
「街と体温 – 香港」と同じく、ライカのレンズにモノクロフィルムを詰めて撮影されたこれらの写真たち。
個展では、丁寧に手焼きされたプリントで、額に美しくおさめられていた。
zineなのだから、プリントはもちろん外部印刷なのだろうが、それにしても黒というか、墨の濃淡が美しい。
表紙の、シベリア鉄道のどこかの駅で薄暗い時間帯に撮られた写真なのだろう、ぼんやりとした線路にたちこめる霧と、
そこに浮かび上がる駅員らしいシルエット。
この絶妙な墨色のさじ加減は、小池氏の写真のなせるわざなのだと思う。

百聞は一見に如かず。
あとは実際に手に取って見てもらうとして、冒頭のステートメントの文章を掲載しておく。


「ダモイ」。旅の途中、私は何度もこの言葉を聞き、少しドキッとしていた。
シベリアに抑留された人たちが聞いたという言葉だったからだ。
日本とロシアの間には戦争の記憶や領土問題など今もお互いの関係に隔たりがある。
北海道で育った私はそれを強く感じていた。
未知の国ロシアを知りたい。その好奇心からシベリア鉄道で旅をすることにした。

ウラジオストク~モスクワまでの約9000km の区間を何度も乗り降りし、車内の人たちと話し、人や景色を撮った。
出稼ぎ労働者、エンジニア、軍人、商人、旅人、様々な人と仕事や文化、政治、歴史などをグーグル翻訳越しに語り合った。
彼らは饒舌で気さくで自由に話す。
ロシアは閉鎖的という私の想像はひと昔前のステレオタイプだったのだろう。

「Домой(ダモイ)」。これは故郷や家庭、帰るということを意味する言葉だ。
親しくなると彼らはその言葉を多用し、自慢の風景や家族や友人の写真を嬉しそうに見せてくる。
君のことも知りたいと根掘り葉ほり聞いてくるのも微笑ましい。

鉱山の労働を終えて実家へ帰る途中の男は言った。
「この鉄道があるから故郷へ帰ることができる。家族に会うことができる。君にも会えた。故郷を見せたい。」
遠くから来た私を分け隔てなく受け入れ知ろうとする彼らの姿に感動した。

気がつくと、私と彼らの間にある汚れた窓は取り払われていた。

A4変型 21×21cm 32ページ 1,500円