これは昭和の写真ではない。れっきとした令和の東京の写真だ。
けれども、この写真群を見たときに覚える懐かしさは一体何なのだろう。
コロナ禍で五輪を迎える東京という街を切り取った1枚1枚。ブラウン管TVで目にしたことのある走査線の効果で、現代なのか過去なのか、不思議な錯覚にとらわれる一冊。
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ブラウン管とは不思議なもので、表示面に照射された電子ビームそれ自体は一つの点でしかないのだが、走査線と呼ばれるその軌跡の残像を脳が補完することで、一枚の映像が浮かび上がってくる。
2021年、東京。コロナ禍の中、オリンピックは前年から延期されたが、「TOKYO 2020」の文字は街のいたるところに残されたままだった。その残像のような光景と重なるようにして、消えていく景色、そして新しく生まれる景色があった。
本作では、ブラウン管テレビ時代のスチルビデオカメラ(※)を通して街を見つめることで、これらの残像をとらえようと試みた。
見た者の脳内で走査線の隙間が補完されたとき、そこには何が浮かび上がってくるだろうか。
A5変型 96ページ 1500円