川原氏の写真を初めて見た時、かつて自分が子どもだった時、例えば夏休みを過ごした田舎の家を思い出した。土の匂い、光の眩しさ、蝉の声。
見たことある気がするけど違う人の記憶。でもなんだか懐かしい。

祖父母から受け継いだ、自身の記憶を、川原さんは今度は自身の娘さんたちに託そうとしている。
写真はその瞬間を切り取り、永遠に焼き付ける。月日が流れることは、変わり続けることを意味する。
人の命には限りがあり、そしてまた人は成長していく。
祖父母と娘さんとの関係性も、少しずつ変わっていくのだろう。
人は生き続ける限り、変わることを受け入れていかなければいけない。
川原氏は、そんな人の宿命を、写真という形で符号をつけているのかもしれない。

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幼かった頃、両親が共働きだったため、学校から帰ると祖父母と過ごすことが多かった。祖父は、朝早くから畑仕事に精を出し、祖母は夜遅くまで薄暗い明かりの下でミシンの内職をしていて、一日中休むことなく働いていた。
祖父母からはいつも土の匂いがして、僕はその匂いが好きだった。
実家を離れて生活するようになり、写真に興味をもつようになってから祖父母にカメラを向けるようになったことはごく自然なことだった。
あるとき、ファインダーを通して祖父母と娘を見ていると、自分の幼い頃にタイムスリップしたような感覚を覚えた。懐かしさとともに、湧き上がる祖父母に対する幼き日の想い。
それは僕を今まで支えてくれていた記憶だった。
この写真は祖父が亡くなり、その後次女が生まれ、長女が小学生になるまでの10年分の家族の記録だ。
子どもの頃から永遠に続くと思っていた実家の景色も祖父を失ってから、少しずつ変わっていくけれど、祖父が残した畑に立つ祖母の姿だけは今も変わっていない。
僕は、祖母がカメラの前に立ち、伝えようとしてくれたことを娘に伝えたいと思う。
いつの日か訪れる実りの日を待ちながら。

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写真集仕様:

サイズ:A5(148×210mm・厚さ約13mm):表紙+本文100P
表 紙:布クロスA細布 細布SF420 S-120(生成):表1・背 箔押し1C(カラー赤)、表1 デボス加工あり
題 箋:アートタック:カラー4C/0C
本 文:b7トラネクスト(99K):カラー4C/4C
見返し:NTラシャ(100K)びゃくろく
製 本:上製本、角背、本文PUR固め、題箋貼り